例のファミレスにて、期末テストに備えた勉強会が開催された。前回のメンバーに加え、今回はドリーマーも参加していた。ヴァンガードは相変わらず一人で修練している。
前回は姿を見せなかったドリーマーに今回参加した理由を尋ねた。
彼女は少し恥ずかしそうに「数学が苦手で、教えてもらおうかと…」と呟きながら、視線をサイファーに向ける。その眼差しに込められた意図は明らかだった。彼女はこの勉強会の恩恵を理解しているようだ。
前回の試験で五教科全てで高得点を叩き出したというサイファーの存在感は、この空間において圧倒的だった。ドリーマーもファングも数学を苦手としているらしい。俺も同じだ。三人で彼女に教えを乞うべきだろう。
勉強がひと段落した時、グラトニーがドリーマーとヴァンガードの関係について話題にした。
「二人は付き合ったりしないのか?」と場の空気が変わる言葉を放った。俺も気にはなっていたが、あえて話題にしなかった。
「そういうのはないかな」
ドリーマーが明後日の方を見ながらそう答える。だが、グラトニーの一言で膨れ上がったこの話題は簡単には収束しなかった。周囲が次々と言及する。
場の空気が盛り上がる中、彼女は一息ついてこう言った。
「今のこの六人の関係が好きだから、それを壊すようなことはしたくないな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は目を見開いた。
彼らと過ごす日々の中でいつも感じていたこと。
自分では、絶対に口にしないようなこと。
俺は、この六人の関係が心地よいと思っていた。
それを口にするのはあまりに気恥ずかしく、何よりそんな風に思っているのは自分だけなのではないかという疑念があった。
だが、ドリーマーの言葉が、それを否定した。
俺と同じ考えを持つ者がいる。
その事実に、驚かずにはいられなかった。
俺の様子から何かを感じ取ったのか、サイファーが
「どうしたの?」と尋ねてきた。
動揺していた俺は、ドリーマーと同じ事を思っていた事を伝えた。途端に、言葉にしたことへの「恥ずかしさ」が襲いかかる。
だが、それは以前のように俺の闇を疼かせる類のものではなかった。
この感覚は、同じ「恥ずかしい」という言葉では形容できない何かだった。
なぜ俺の闇は反応しなかったのか。その答えの在処は俺にはまだわからない。
皆が茶化しながらも、同じ想いを抱いていると伝えてくれてようやく気づく。距離が縮まったのは錯覚ではないと。
勉強会は期末テストの範囲が広いこともあり、早めに解散となった。
帰り際にファングが呟いた言葉が、俺の胸中に不穏な波紋を広げた。
「夏休み入ったら、みんなでプール行こうよ。」
皆もそれに賛同し、楽しげな声を上げていた。
水面の先に何が待つのか──
それを知るのは、まだ先の話だ。