地上――プリ・アビス
堕ちたその地で、俺はひとりの人間に世話になっていた。
神の力を失った俺に、できることなど何ひとつなかった。そんな無力な俺に手を差し伸べたのが、その男、レイジ。
彼には、記憶喪失と嘘をついた。
実際にこの地上の知識などなかったのだから、全てが嘘というわけではない。
レイジは得体の知れぬ俺を疑いもせず、狩猟の術、都市での暮らし、貨幣の扱い、この世界で生きるための知識を与えてくれた。
中でも、最も衝撃を受けたのは神界には存在しなかった魔術という概念だった。
言霊に込められた力と、内に流れるマナによって、世界の理に干渉し、事象を捻じ曲げる異質の術。
レイジが最初に教えてくれたのは、彼の得意とする護りの陣式だった。
赫焰ノ陣
「劫火の灯、焦熱の壁
紅蓮の舞、赫灼の檻
纏え、『赫焰ノ陣』」
初めて魔術を見た瞬間、俺の中に眠る何かが目覚めた。
堕ちた当初は、混沌の神への報復こそが己の存在理由だと信じていた。
だが、魔術の一端に触れたことで、復讐の炎は色褪せていった。
今はただ、神界の神々ですら知らぬこの力で、世界の真理を追い求めている。