異端の六芒星たちと、プールへと足を踏み入れた。日程の調整に手間取り、実現したのは夏休みの最終週。
先輩達との経験を活かし、ただの市民プールではなく遥かに広大な海水プールを選択した。しかし、その分出費も大きかった。
俺たちは着替えを終え、広場に集合した。
水着姿の六芒星の女性たちに、脳内で準備していた賛辞を捧げる。
二度目ともなれば、手慣れたものだ。
言葉を紡ぐ技量は磨かれ、もはや老練の戦士の域に達している。
その一方で、グラトニーはすでに水の誘惑に抗えず、一人準備運動を開始していた。
この海水プールには多くの来訪者がいる。
一度離れれば、再び巡り合うことは容易ではないだろう。
集合の時刻と場所のみを定め、グラトニーは人混みへ消えていった。
「私らも行こっか」グラトニーの後ろの姿を見たファングが呆れたように言う。
”流転の水路(流れるプール)”
流れるプールにやってきた。
流れに逆らってみるが、二秒で無理だと悟った。
抵抗を許さぬ水流に身を任せると、驚くほど楽だった。抗う者は淘汰される。社会の厳しさを疑似体験していようだった。
”蒼穹の波動(波の出るプール)”
押し寄せる波に身を委ねる。
水を支配したような感覚。
目覚めるかもしれない、新たな力に。
しかし、それも束の間、波の発生する時間が終わった。
波に心を奪われ、気づけば六芒星たちの姿は消えていた。
探さなくては思い、俺は”激流の道(ウォータースライダー)”へと向かう。
高所からなら、見渡すことも容易い。理に適った選択だ。決して遊びたいわけではない。
途中で、偶然グラトニーと再会した。共に激流へ身を投じることになり、階段を登る。
頂上に着いたとき、彼が遠くに仲間たちの姿を見つけた。
水の奔流に身を委ね、人の速さを超越する。激流の道を行く俺は、誰にも止められない。過去の自分を振り切り、新たな次元へと踏み込む。
激流の道が終わるまでの数秒間、六芒星と合流するという目的を見失っていた。
グラトニーと共に目撃した影を追ったが、辿り着いた先に、彼らの姿はなかった。
どうやら俺達は、残像を追っていたようだ。
彷徨ううちに時は過ぎ、集合の刻が訪れる。
集合場所には四人はいた。
「どこ行ってたんだ?」
ヴァンガードの問いと四つの視線が突き刺さる。
俺は激流の道で…いや、みんなを探すために動いていたのだ。
迷子になったことを素直に謝罪する。
午後からは、全員で行動することになった。
昼食後、今度はみんなで激流の道へ。
俺は再び水の流れに乗って加速した。
同じ時は二度と訪れない。
この夏を超える夏は、永遠に来ないのではないか。
もし、このまま光よりも速くなれたなら――
時間遡行者になって、何度でもこの夏を繰り返すのに。