灼熱の太陽が空を支配する中、先輩たちとプールに行った。
合流するなり、装備の確認が始まる。
ファインダー先輩とディスパーサー先輩が俺の服装をじっくりと観察し、「成長したな」とでも言いたげな顔をする。まるで師匠がが弟子の成長を喜ぶような、そんな表情だった。
そこに割って入るガーディアン先輩。
「早く行くぞ」と急かされ、俺たちは更衣室へ向かった。
更衣室を出ると、広場で再集合。
水着姿の二人の女性に俺は「似合っている」「可愛い」など、ありきたりな賛辞を捧げ、機嫌を取る。
形式的なやり取りを終えると、ディスパーサー先輩が言った。
「さて、何しようか。」
四人で顔を見合わせる。
周囲を見渡せば、50mプール、25mプール、子供プール。
「友達とプールって、何するもんなんだ?」とガーディアン先輩が問う。
沈黙が場を支配する。
単に泳ぐだけなら独りでいい。お客は少ないとはいえ、追いかけっこや競争をするには危険すぎる。皆でできること…?
ガーディアン先輩の問いに、俺たちは答えられなかった。異性がいることで、どこか遠慮がちになっているのも感じた。
この妙な空気を打破する策も思い浮かばず、とりあえず準備運動をして、浮き輪を借りた。
水の上に身を預け、四人でただ流れる時間に身を任せる。
「友達とプールに行くって、こういう感じなんですか?」
何気なく口にすると、先輩たちも考え込む。
「……なんか違うな」
「俺もそう思う」
「うん、違う」
全員同じことを考えていたらしい。
水の揺らぎをぼんやり眺めていると、ふとガーディアン先輩の言葉を思い出す。
「夏休みが終わったら、受験勉強を始める」
他の先輩たちも、そうなのだろうか。
もしそうなら、夏が終わると同時に俺はひとりになる。
答えを聞かなければ、夏が終わった後の未来は不確定のまま。
まるで量子の観測の思考実験のようだ。
考え出すと止まらなくなり、つい聞いてしまった。
「先輩たちも、夏休みが終わったら部活に来なくなるんですか?」
「ん? 普通に行くけど?」
ディスパーサー先輩の言葉に、思わず肩の力が抜ける。
「先輩たち“も”?」
ファインダー先輩が僅かに目を細める。
言葉の違和感に気づいたのか、先輩たちが周囲を見回す。
「……いなくなってる」
ディスパーサー先輩が呆れたように言う。
俺も周りを見た。ガーディアン先輩の姿がない。
どうやら、ガーディアン先輩は受験のために部活を休むことを、をまだ伝えていなかったらしい。
夕刻、場内に響く終業のメロディ。
俺たちは着替えて、プールの出入口に集まった。
ガーディアン先輩は二人と不定期ながらも部活に来ると約束していた。受験勉強の合間に、息抜きとして来るらしい。それだけで十分だった。
最後に記念写真を撮ることになった。二年生三人だけの記憶を形にするには、今が好機。
「俺が撮りますよ」と申し出たが、ファインダー先輩が止めた。
「君も入るんだよ」
結局、ディスパーサー先輩のカメラで自撮りをすることになった。
「じゃあ撮るよー。ハイ、ポーズ」
合図をしてから、カメラのシャッターが切られるまでの数秒。
俺はこの時間が嫌いだった。
その一瞬が無限に感じられるこの時間が。
これも時空の歪みというものなのか?
送られてきた写真の俺は、相変わらずぎこちない顔をしていた。
機械が俺の闇を映し出したのか、それとも単に写真写りが悪いだけなのか。
普段なら、自分の不自然な笑顔を見るたびに苦痛を覚える。
けれど――
先輩たちの笑顔が、あまりにも鮮やかで。
俺の不完全さなど、どうでもよくなった。