天啓

深淵教典

夏休みが終わる。
昨日、グラトニーからの連絡があった。ヴァンガードとともに、ラーメンを食べに行くことになった。
最後の一日。何も起こらずに終わると思っていたが、思わぬ形で俺の夏休みは幕を閉じることになった

彼は己の労働の対価を、食に捧げているらしい。今日は彼の信奉する店で食事した。

昼食とは思えぬ時間に駅前で集合。目的の店にはすでに数人の影が列を成していた。
俺もヴァンガードも静かに驚愕。まさかの一時間待ち。

時は来た。
扉が開いた瞬間、客がなだれ込むかと思いきや動かない。
妙な違和感。
入店し、その理由を知る。
目の前に立ちはだかる券売機。
席についてからゆっくり選ぶものだと思っていた俺は、動揺した。
背後に並ぶ人の気配、無数のプレッシャー。
この状況で、最適な選択ができるのか?
指先が宙をさまよう。

「迷ったら店のおすすめにしな」

天啓とも思えるグラトニーの一言に、思考が収束する。
俺はボタンを押した。

席につき待機の間、俺たちは明日について語る。
宿題を終わらせたか、朝目覚めることができるのか。夏の終わりを感じさせる話題だ。

会話の流れが途切れたタイミングで、運命の一杯がテーブルに運ばれる。

テーブルに鎮座する器。
湯気が立ち昇る。
まずはスープを一口。
強烈だった。
後頭部を殴られたような衝撃が走る。
俺の常識を超えた濃厚さが、味覚を支配する。

ちらりと二人を見た。
グラトニーは満足そうに食べている。
ヴァンガードは、俺と同じように面食らっていた。
器が空に近づくにつれ、箸が鉛のように重くなる。
俺とグラトニーは完食、ヴァンガードは敗北した。

美味しかったが、しばらくはラーメンはいらないと思える味わいだった。

「しばらくすれば、また食べたくなるさ」
帰り際のグラトニーの言葉は、理解できなかった。

しかし、妙な説得力があった。

これで夏休みは終わる。

今年の夏は、例年とは違っていた。
かつての孤独な夏では決して得られなかった充実感があった。

明日から、学校が始まる。
例年なら、この日を憂鬱に迎えていたはずだ。
だが、今年は違う。
その理由は明白。
異端の六芒星、そして先輩たちの存在だ。
彼らとの関係は、人生という果てしない旅路の中で、一瞬だけお互いの道が交わっただけにすぎない。やがてそれぞれの進むべき道へと別れ、同じ景色を共有することもなくなるだろう。
だが、今この瞬間だけは同じ時間を生きている。
この高校生活という限られた時間が、彼らをより特別な存在にしているのかもしれない。

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