翼の啓示

深淵教典

ショッピングモールに行った。

喧騒と無数の光が混じり合う場所。そこは来週、異端の六芒星達と訪れる予定の場所だった。時空の歪みを感じつつも、引き返す選択肢はなかった。

集合場所に向かうと、すでにディスパーサー先輩、ファインダー先輩、そしてガーディアン先輩の三名が揃っていた。時計を見る。集合時間の12時にはまだ早い。
俺の登場に三人の顔が微妙に引き攣ったのを感じた。
それが自分の服装のせいだと気づくのに、さほど時間はかからなかった。

「とりあえず昼食にしますか」と提案する俺に対し、ディスパーサー先輩とファインダー先輩が「まず服を揃えよう」と返してくる。昼食は「着替えてから」という謎めいた条件付きで。

二人の視線が俺の服に向けられる。なるほど、これが暗黙の了解というやつか。早々に、俺の翼を捥ぐつもりのようだ。

店内を巡り、母へ送った服装の案を元に、新たなる戦闘装束が整えられていく。

ファインダー先輩の鋭い審美眼とディスパーサー先輩の冷徹な判断により、選ばれた服の数々。二人の圧に押されて、ガーディアン先輩は傍観者となっていた。
俺は試着室に足を踏み入れ、与えられた衣装を身に纏った。

鏡に映る自身の姿は、この世界に溶け込める現世の姿をしていた。

現世の姿を見たファインダー先輩とディスパーサー先輩の表情は達成感に満ち、ガーディアン先輩は優しい笑みを浮かべていた。
装い新たな俺を連れて、三人はフードコートへ向かう。足取りは軽やかだった。

食事中、俺は何気なくガーディアン先輩に問いかける。「先輩たちは、三人で出かけたりするんですか?」
返ってきた答えは意外だった。「いや、遊びに来るのは初めてだ」と。部活ではいつも親しそうにしていた彼らが、こういった機会を持ったことがなかったとは。

「また機会があれば出かけたいね」とファインダー先輩が呟く。その言葉にディスパーサー先輩も「そうだね」と短く言い、ガーディアン先輩は軽く頷く。

今日が、彼らにとって特別な日になったのかもしれない。

最後に向かったのはガーディアンの目的地、本屋だった。各々が興味のある書物を探し始め、店内で自由行動となる。
俺は欲しい物がなく店内を歩いていた。すると、赤い背表紙の並ぶ棚の前に立つ彼の姿を見つけた。
「赤の書」──それは、大学の過去問集。
2年生になったばかりなのに準備の早さに驚く。これが普通なのだろうか。

俺の存在に気づいた彼は短く言った。

「待たせて悪いな」

待たせたのは俺の方だ。
禁忌の衣の封印を、先輩に付き合ってもらったのだから。
俺は服選びに付き合ってもらったことへの礼を返した。

彼は少し照れたように微笑んだ。
「美術部のみんなで遊びに行ってみたかったからな。良い機会だったよ」

俺の漆黒の翼が、彼に新たな道を示したのだ。

そう思うと、体中に高揚感が駆け巡った。

本屋を出た後、ファインダー先輩が俺にファッション雑誌を手渡してきた。
「これ、参考にして」と軽い口調だが、その目は真剣だった。ディスパーサー先輩も真剣な表情だった。
やれやれ…。そこまで期待されてしまっては仕方ない。俺は新たな服装の研究を誓った。

家に帰ると、母が俺の新たな装いを見て目を輝かせた。
「写真を撮りたい」と言われ、昂っていた俺は堂々と意気揚々とポーズを決めた。

が、ポーズはいらないと言われた。

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