ショッピングモールへの遠征を控え、俺は母に金銭の援助を求めた。
俺が無駄を省いた短い言葉で頼むと、母はじっくりと俺を見つめた後、問いを放った。
「誰と行くの?」
俺は異端の六芒星たちについて簡潔に説明した。
その答えを聞いた瞬間、母の動きが止まった。
「もしかして、女の子がいるのにいつも来ている服で行くつもりなの?」
その言葉に疑問を抱く。知っているはずだ。いつもの服装以外の選択肢がないことを。なのに、なぜ。
母上は、俺の怪訝な顔を見て続けざまに告げる。
「お母さんが服を買ってあげるから、いつもの格好で行くのだけはやめなさい」
普段着の気に入っているところを伝えようとした瞬間、母の声がそれを押しつぶした。
諭すように「やめなさい」と。
その後の俺の抗議は全て跳ね返される。”絶対的な支配(アブソュート・ルーラー)”の前に、言葉は無力だった。この歳で母と出かけているところを友達に見られたら、尊厳が崩壊するであろう。
最後の策、お金だけもらい、自分で用意するという提案も却下された。
「ダメ。お母さんが選ぶ」
母から「友達と遊びに行く日は、私が選んだ服を着ないとお小遣いあげないから」と最後通告を受けた。
どうやら俺は”着せ替え人形(ドール)”となる運命のようだ。
抗う手段がない以上、己の無力さを受け入れるしかない。
禁忌の衣を纏うには何が必要か。この現実を乗り越えるための力とは。
それは、金だ。
自らの力で得た金銭にほかならない。
今週末に、母と買い物に行くことになった。
買い物のために買い物をする。何とも滑稽な話だ。