「絵だけ描いていても、いい絵は描けません。」
意味は理解できる。
世界を知らずして、何を描けるというのか。
未知なるものに触れなければ、世界は広がらない。今日、俺が部活へ赴かなかったのは怠惰になったからではない。
これは成長のための選択だ。
放課後、俺は再び”魔界(ファミレス)”に訪れた。
俺がこの地を踏むのは、これで二度目。
“常識破りの先導者(ディスラプト・ヴァンガード)”に誘われた入学式の日以来だ。
今日ここに集うのは以前のメンバーではない。異端者たちが一堂に会する。校外で会うのは初めてだ。
魔界の門を潜った視界の先、異端の女性たちはすでに先に席についていた。
“夢幻の体現者(ドリーマーズ・ハイ)”、”蜃気楼の爪(ネビュラス・ファング)”、そして”銀の叡智(シルバー・サイファー)”。
ヴァンガード達は、異端の六人で高校生活を送るつもりらしい。食堂で昼食を共にする日々が、それを物語っていた。
「こっちこっち」と、ファングが大きく手を振る。その声に促されるように、俺とヴァンガード、”終わりなき大喰らい(グラトニー)”の三人も席に着く。
ドリーマーとヴァンガードは同じ中学出身で、昔から気心の知れた関係らしい。一方で、ファングは高校でドリーマーと知り合い、持ち前の明るさで場を盛り上げていた。
サイファーはファングと同じ中学だったそうだ。その静かな雰囲気は対照的だ。
グラトニーと俺は…?
ただヴァンガードの前後の席だっただけ。それ以上の縁はない。
しばらくの雑談が続いたところで、ファングが声を弾ませた。
「今度みんなで買い物行かない?」
唐突な提案に、俺の闇がざわつく。
出会ってまだ2週間、ここまで踏み込めるものなのか?
この場の空気を壊すわけにはいかない。
俺は気持ちを押し込め、うなずいた。
「いいね」
次々と賛成の声が上がり、話は一気に進んでいく。
こうして、2週間後にショッピングモールへ行くことが決まった。
俺の胸には、妙な重圧がのしかかる。
異端の六人…いや、”異端の六芒星”との初めての遠征が、どんなものになるのか――
俺は、まだ五人との距離感を測りかねていた。